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イギリスの食文化研究家、食のダイレクター/編集者/ライターの羽根則子がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。chattex アットマーク yahoo.co.jp


by ricoricex

『花衣ぬぐやまつわる…… わが愛の杉田久女』


『花衣ぬぐやまつわる…… わが愛の杉田久女』_e0038047_20574227.jpg


読了後、すぐに思い出されたのは、『虞美人草』。

松本清張の『菊枕』は、杉田久女をモデルにした、とされているけれども、モチーフにしたに過ぎなくって、創作、というのが私の所感。
甲野藤尾(いい名前だなぁ)のような、意思を持った、でもそれが故に時代と相容れず、結果、時代に殺されてしまった女の人を描きたかったんじゃないかなぁ。
(ともに異質とも言える作品。どちらも非常におもしろい、です、私には)

そういえば、田辺聖子が杉田久女を書いた作品があったなぁ、と思いつつ、長いことそのままにしてきて、やっと図書館で借りてくる。

・・・

唸る!

すごい作家だなぁ。
大衆小説、というイメージが先行してしまうけれど、どっこい、
田辺聖子、ほんと、読ませるなぁ。
力量をまざまざと見せられた感じ。

田辺聖子、ほんと、文章がうまいなぁ。
丸みがあって、読みやすくって、例えも、ああ、そうだな、とふわりと腑に落ちる。
押しつけがましくない、こういう軽やかな文章って、簡単なようで書けないんだよ。

思うんだけど、こういう平易な文章が、作文にならず、ちゃんと読ませる文章になっている人は、例外もあるけれど、インプットが圧倒的なんじゃないかな。
量が質を凌駕する、とは違うけど、基礎体力がすさまじい、んだと思う。

これは評伝。小説、ではない。
なので、調べ物の範囲も広く、資料の読み込み(幅が広い!)、取材、
それを混ぜつつ、既刊の類書についても資料を照合して言及、
これらの事実と推察や思いを、事実は事実、自身の視点は視点、としてきっちり書き分け、
それでいて、そこは小説家、かっちりしたルポルタージュやレポートではなく、直線的、でなく、大きな包容力で持って、かつエンターテイメント性を持たせて、ぐいぐい読ませる。
視覚をふくよかに言語化した描写で、景色がありありと見える。

フェミニズム、夫婦(家族)の在り方、エリア性にも正面から触れていて、
35年前の作品なのに古びていない、
むしろ今言われていることよりも、私にはそうだよなぁ、と頷くことばかり、なのはどういうことなのか。
結局、人間の本質は変わってないってことかもしれない。

・・・

序章で、日本のエリアによるコミュニケーションのとり方の違いについて綴っていて、これ、しみじみわかるなぁ。
昨夏、仙台を訪ねて、これまでも行ったことあったけど本当に要件だけだったのが、ちょっとだけゆったりスケジュールで、そのわずかな時間でカルチャーショックを受けたんだよね。
数少ない交友関係の私の周囲には、やたらと環瀬戸内出身者が多いのは、相手の波長を探ろうと躍起にならなくてもいいから、かもしれない。
つい先日も関西での駅員さんとのやりとりが、普段の東京の生活にはないもので、ああ、この感じ、って、すっくりと認識したところだし。

同じような、エリア性という意味合いで、個人的に興味深かったのは、
・(九州・小倉の)醤油・味噌が合わない
・(当時の九州・小倉の新聞に)鯨料理の記事があった

前者はねぇ、今もですねぇ。
それこそ、昨年末、ある集まりで、「あの甘い醤油は勘弁して!」で満場一致になって、苦笑。
甘いお醤油で育った人以外で、好き、って人、私は知らない。私の周囲にはいない。
あの醤油さえなければ、あの醤油は苦手、と何度言われたことか。
(私は、この悪評高い醤油で育っているけれど、東京生活が長いので、そんなこと知らず、もしくは理解してる、ってことで、その度にこっそり打ちあけられるんですよねぇ)
表立っては言わないでしょうが、これが本音でしょう。
逆も然り。私は、これじゃないとねぇ、ってこともあるので、小さいのを常備してます。
お味噌も故郷界隈のものですねぇ。

後者は、鯨を、ハレ、ではなく、ケでどうやって食べてきたか、を調べたいなぁ、と思っているので、これは大きなヒント!

それと、小倉って、こういう街の捉え方なのか!ってのも、非常に興味深い。
ものすごく貴重な視点、だけど、地元の人はディスり、って思っちゃうのかなぁ。

・・・

これは買って手元においておこう。

田辺聖子、つくづく、とんでもない作家だったんだなぁ。
どうにも過小評価されている、気がする。
人間の本質を描いたものが状況設定は古びても生き延びるんだろうなぁ。
松本清張の『菊枕』『或る「小倉日記」伝』『断碑』あたりの、実在の人物をモチーフにした(でも、フィクション)作品を改めて読みたくなったよ。

ところで、タイトルも装丁も、なんかもったいない気が、する。もう少しやりようがあったんじゃないかな。



by ricoricex | 2025-02-23 00:00 |