『2度目のはなればなれ』(2023年/オリバー・パーカー監督)
小品佳作。
マイケル・ケインの引退作にして、グレンダ・ジャクソンの遺作。
大作、名作の類ではないけれど、ちょっと映画でも観ようかに適していて、観た後に温かい気持ちを残す。
非常にイギリスらしい映画。
日本では、戦争は勝利しても傷を残す、仲睦まじい夫婦のお手本、みたいな見方が圧倒的になって、それでいいんだろうけど、
実のところ、イギリス社会がよくわかる。
まずは赤いポピー。
ところどころに登場するのはこちらが、その理由(↓)。
The Poppy Appeal – Why Do The British Wear A Red Poppy In November?
冒頭で若者がコーヒーを、一方でマイケル・ケインが紅茶を砂糖4杯で注文するのも、世代の対比(今やイギリスはコーヒーの国)、
老人のためのケアホームがイングランドの南西部にあるってのも(このエリアは気候がいいこともあってリタイアした人が住む)、
ケアホームでのスタッフや最近戦争に従事した人が、いわゆる白人でない、多様な人種にしているのも、
わかりやすいところでは食事なんかもそう。
むずかしい、なぁ。
日本語タイトルは『2度目のはなればなれ』。
ポスターなんかも、老夫婦をフィーチャーしているけれど、ううう〜ん、これはものすごいジレンマ。
オリジナルタイトルは『The Great Escaper』。
直訳すると、“大脱走兵”。
いかにも、なんですよ。
“The Great Escape”は、戦闘シーンのない戦争映画『大脱走』、
そして、これ常套句でもあり、ホリデー(夏休みとか)に行ったりするときに、こういう言い方をするので、
両方、踏まえているのは明らか。
イギリスの国民的作家ディケンズの『大いなる遺産』(原題は、『Great Expectation』)も多少意識しているかも(内容ではなく、タイトルのコピーライティングとして)。
それもあって、『The Great Escaper』以外のタイトルを思い浮かばないんだけど、ううう〜ん、こういうメロドラマ的なものにしたか。。。
ノルマンディー上陸作線とかの歴史的基礎知識、イギリス人が抱いているフランスやドイツのイメージ(日本とは当然違う)なんかもないと深い理解ができない(なくても観賞できる作品になっています)から、こういう切り取り方にしたのか。。。
でも、やり方、はあるのかもしれない。他山の石、だなぁ。
最後は茶目っ気でしめているので(これも、いかにもイギリス)、重くならないようにしています。
8月15日のVJデイ、11月11日のリメンバランス・デイでは、どうしたって居心地の悪い思いをする。
そして、戦争に勝つ、というのはこういうことなんだな、と思わされる。
ところで、見えないけれど、向こうに海、海辺のプロムナードを真正面から切り取る構図は
『Wish You Were Here(あなたがいたら / 少女リンダ)』(↓)
を思い出してしまった。
もはや(そもそも、か)知っている人はいないだろう、でも、私の生涯のベスト10に入るくらい、好きな映画。
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『2度目のはなればなれ』