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イギリスの食研究家、食のダイレクター/編集者/ライターの羽根則子がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。chattex アットマーク yahoo.co.jp


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『マザー・グースの唄』


『マザー・グースの唄』_e0038047_21363861.jpg

年末に『ザ・ビートルズ:Get Back』に観て、
「そして2人になった(And then there were two)」のセリフ
 ↓
『そして誰もいなくなった(And then there were none)』(アガサ・クリスティー)じゃん
 ↓
もとは、マザー・グース「Ten Little Nigger Boys」じゃん(↓)。

ってなったから、余計に注意深くなっているのかも知れない。

・・・

イギリスのことをあれこれやっていて、イギリスのメディアの記事に日常的に触れていると、
自分の基礎知識のなさに悲しくなる。

それは学問とはまた違って、日常的な地べたの文化、というか、
小学校などで習っているであろう国語(イギリスの言葉)や、子供の頃に周囲の大人から伝承された言い回しなどの英語的感覚で、
ヘッドラインなどに引用が実に多いんですね。
知っていなくても意味自体は通じるけど、
その出処を知っているといないとでは、感じ方が変わってくる。

その引用となるのは、
シェイクスピアだったり聖書だったり、『Alice's Adventures in Wonderland(不思議の国のアリス)』だったり、ディケンズだったり、
そしてマザー・グース(ナーサリーライム)、なんですよね。

・・・

古本屋で目について買っていたものの、しばらくそのままにしていた本をやっと読む。

『マザー・グースの唄』(平野敬一著/中公文庫/1972年初版、1977年19版)

私が感じている、非英語圏で教育を受けた人間がアカデミックに進んでもすくえない点、
言葉自体は辞書を引けばいい、今なら翻訳アプリなんかを使えばいい、
でもその向こうにある、文化とかニュアンスとかは、どうしたって受け止めるこちらに蓄積がないと、むずかしい。
その蓄積、というのが子供の頃に環境から得たもので、
伝承童話であるマザー・グースもそれに当たる。

読み始めたら覚醒して一気に読み、
すぐにまた読む。

・・・

マザー・グースは高校生の時に、講談社文庫から谷川俊太郎の訳、和田誠の絵でひととおり読んでて、ああ、これはあれだな、あれはこうだな、とはなったけれど(これはこれで役に立った)、
必要に応じて必要なものが出てきた際に、その都度元の英語にあたってはいたけれど、付け焼き刃ではダメだなぁ、との思いは常にあり、
一昨年『Alice's Adventures in Wonderland(不思議の国のアリス)』を原語と対訳、解説付きのを買って唸り、
内容をよく知らないで買ったこの本もそう。

1972年と50年以上前の本だけど、文章は若干古さはあるけれど、
日本における、こういう地べたのものを、特に知性や知識、教養のある、いわゆる頭のいい人たちほど軽視/無視する傾向はさほど変わっていないように思えるし(違う、かな?)、
著者の言い分に深く頷く。

・・・

照合したい、調べたい箇所がたくさん出てきて、しおりを挟んでいたら、ぶっとくなっちゃった。

・なぜblackbirdが多用されるのか
・hillにはどんな意味があるのか(日本では山と訳す方がいいだろう)
・映画『突然炎のごとく』、原題『Jules et Jim(ジュールとジム)』は「Jack and Jill」のもじりなのか・「Helter Skelter」は「Hector Protector」のもじりなのか(多用されているうち、古いものは1731年、ジョナサン・スウィフトの詩)
・(記憶が曖昧なのだが)、故ダイアナ妃をはじめ、子供達は継母のレイン・スペンサー(Raine Spencer)を快く思っておらず、“Raine Raine go away”と言ったのは、まさにマザー・グースの“rain rain go away”から
・12進法が用いられる。6や24は何を示すのか
・そう、アップルパイはアメリカの専売特許じゃない! イギリスにも古くからある。裏付けとなるちゃんとした出典をまたひとつ見つけて安心!
・「Blackbird」「The Fool On The Hill」「Eleanor Rigby」「You Never Give Me Your Money」もビートルズの楽曲の歌詞やタイトルにはマザー・グースの影響を強く(もろ)感じるものがいくつもあるけれど(『ホワイト・アルバム』は特に)、マザー・グースがイギリス以外のアメリカや英語圏ででも基礎認識としてあるのであれば、なぜ彼らが世界的成功を収めて今も色褪せない説明のひとつになるのではないか
また、「You Never Give Me Your Money」含む『Abbey Road』B面のメドレーの曲調も、マザー・グースというか民間伝承の歌を反映させているのではないか
・「Who Killed Cock Robin」の引用はあまりに多く見られるが、『To Kill a Mockingbird(アラバマ物語)』にもそれを見出すのは、拡大解釈が過ぎるのだろうか
etc

それにしても、アガサ・クリスティーもだし、ビートルズもだし、ケン・ローチもだし、
普段目にするメディアのヘッドラインとか、本当に引用が多い。

シェイクスピアもディケンズも私を待ってるし、先は長いなぁ。


by ricoricex | 2024-01-07 00:00 |