先月、イギリスに行った際に改めて感じたことが、村上氏に関連しているのです。
ひとりで動いていることが多いためか、話しかけやすそうに見えるのか分かりませんが、
イギリスにいるとよ〜〜〜〜く話しかけられます。
たとえば、道を訊かれること1日平均1、2回
(まあ、かく言う私もよく話しかけるのですが)。
ある日、ランチを食べようとそこそこ高級なレストランにふらっと入ったときのこと。
その店は顧客を名前で呼ぶシステムなのか、席に通されてすぐに名前を聞かれました。
メモをとろうとしていたので、「ノリコです。綴りは、N、O、R、I、K、O」と返答。
すると「ノリコね。ありがとう。ところで、ノリコ、あなたはどちらの出身ですか?」
「日本です」と応えるや否や、それまでもフレンドリーだった顔が、ぱーっと明るくなって、
「じゃあ、ハルキ・ムラカミはご存知? 私ね、彼の作品の大ファンなんです。先日、ロンドンでサイン会もあったんですよ」
「はい、知っていますよ。そのサイン会のこともニュースで見ました」
「私の周りでは、『ノルウェイの森』が一番って人が多いのですが、私の好みはちょっと違うんです」
「私と一緒ですね。私が好きなのは『ねじまき鳥クロニクル』と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。あとは短編です。とはいえ、最近のものは全然読んでいないのですが」
「私もそうなんです。『1Q84』もよかったですよ」
「私は、『1Q84』はどうしてもジョージ・オーウェルの『1984年』を思い出してしまうので、手をつけてないんです(笑)」という流れに。
もちろん最初は単にきっかけだったのが、会話が進むにつれ、
ああ、この方は本当に村上春樹の作品が好きなんだなぁというのが全身からにじみ出ていて、
へええええええ、と感じ入ったのです。
そのときに思い出したのが、数年前に、あるクッカリークラスに参加したときのこと。
そのクラスはポッシュな学校のワンデイコースでした。
授業そのものはチューターが行うのですが、
細かいことはアシスタントの方々がやります。
イギリスのこういうクラスでは、
名前を綴ったシールをエプロンの胸の辺りに貼ることが多く、この日も然り。
で、アシスタントの方に、あれこれ訊いていたときのこと。
「ところで、あなたはどこの出身ですか?」
「日本です」
「やっぱりね! ノリコって名前ですもんね。ナオコに似てるなぁってとっさいに思いましたよ」
「ナオコ?」
「私、ハルキ・ムラカミの『ノルウェイの森』が大好きなんです!」と言い、その後、いかにこの作品が素晴らしいか、熱く語ってくれました(笑)。
確かに、アルファベットで綴ると、NORIKOとNAOKOは似てなくも、ないか。。。
とにかく、そんなことがときどき起こるのです。
村上春樹氏の場合は、訳もマーケティングも露出の仕方もいろいろうまいのでしょうが、
そこには作品の力がないと元も子もないわけで。
ふと我が身を振り返ったときに、
私は音楽(インディーというかオルタナティブというか)オタクで、
そういうことを、その国の人にとつとつと喋ると、
ものすごく喜んでくれるし、何より会話が弾む!
もちろんメイド・イン・ジャパンのハードなものでもいいのですが、
小説とか音楽とか、こういうソフトなもので共通のものがあるのは、
心の部分でも共有できるものがあって、それってものすごく大きいことだと思うんです。
なんというか、心の共通言語というのかな。
なので、自国のみならずほかの国でも認められている作家のいる国って有利だな、と。
前述のように会話の糸口になるし、
そういう作品を生み出したその国をもっと知りたくなる。
大きなことをいうと、相手を理解する、しようとするその姿勢が、
世界平和につながるのかなぁと思ったりもして。
日本にもう少しそういう作家がいるといいのになぁ
(ちょっと外国で何かやっただけで、
海外でも大人気!と日本国内に向けて発信されるようなという意味ではなく)。
とはいえイギリスの場合、これらの文化的なことは、
大半を占めるワーキングクラスではあまり期待できませんが。
なぜか。
本を読む、というのは、ミドルクラス以上のホビーでありレジャーであり、
レストランに行く行為、料理を習う行為と同類だから。
だから、ハルキ・ムラカミの話が出てきたのも、そういう場だったわけだし。
サッカー選手にはワーキングクラス出身が多いことは知られていますが、
ある日、某選手が本を読んでいたか、家に本棚があったかで、
おい!あいつ本読むんぜ!ということで話題になったこともあったぐらいで。
もちろん時代は変わるし、これほど情報化の進んだ社会だと、
ステレオタイプに当てはまらないこともおおいにあるんですけどね。
実は私は、同じムラカミなら、リュウの方が好きなんですよね(笑)。
もっと本能的というのかな。
自らを軸にごく身近な範囲で起こる意識の揺れではなく、
周囲の事象で自身の意識も立ち位置もいとも簡単に変わるんだ、
それでいいんだ、ってあたりが。そして、そこに自我はあまり関係ないところが。
どうにも私の中でぺたっとはり付いていた永遠のモラトリアムみたいなものは、
あるとき、意識的に切り捨ててしまったので、
それ以降、ハルキを読むモチベーションが失せてしまったんですよ。
でも、今回のイギリスでも話題にのぼったわけだし、久しぶりに読んでみようかな〜。
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