秋になると豚はリンゴ畑に放たれた。
それは木から落ちたリンゴを
きれいさっぱり食べさせるためだ。
サマセットにはたくさんのリンゴの木がある。
気候と土壌がリンゴ栽培に適しており、
リンゴから造る酒、サイダー醸造の中心地でもあった。
サイダーの製法については12世紀にフランスから持ち込まれ、
最初はケントとサセックス、その後、瞬く間にイングランド西部に広がった。
初期のサイダーは野生のリンゴを原料に、
ハチミツで甘味を、スパイスで風味を加えて造られた。
17世紀に入り、ハートフォードシャーでサイダーに適したリンゴを探す試みがなされた。
そうして、Slack-My-GirdleやFoxwhelpといった品種が見つけられ、
同時にScudamore's Arabが作られた。
これらは今で年月とともに成長し大木となり、若い低木に植え替えられている。
その方が管理がしやすく、収穫も簡単だからだ。
サイダーを造るため、まずは馬力を利用した大きな石の歯車でリンゴを砕く。
そして果実をマットに挟み、圧搾する。
搾った果汁を自然発酵させてサイダーにしたのだ。
今日では、サイダーは工場で生産されるが、
農家産サイダーでは、昔ながらの製法で造っているところもある。
この酸味が強い農家産サイダーは“scrumpy”と呼ばれている。
サイダーはラテン語で強い酒を意味するsiceraに由来する。
scrumpyも同様にラテン語のscrumpを起源とする。
このscrumpという言葉は
小さくしなびたリンゴ、もしくはリンゴを盗むという動詞を意味する。
サイダーはイングランド西部では今も重要な位置を占め、
カーハンプトンなどの村では毎年1月にwassailiと呼ばれる儀式が
今なお行われており、その年の豊穣を祈ってサイダーがあけられる。
ご存知のように、豚とリンゴは相性がよい。
ということは、豚とサイダーは言わずもがな。
その代表的な料理が豚とサイダーのキャセロールだ。
サイダーが豚の旨みを引き出し、肉質をやわらかくする。
さらに、サイダーと相性がいいのは豚だけではない。
ターキーをサイダーで煮込んでもよし、鶏肉や魚にも使える。
サイダーはいわば、料理を作る上でのマルチプレイヤーである。
(・・続 く・・)
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