映画『007』の第3作のタイトルといえば頷く人もいるだろう。
ムーンレイカーとは、ウィルトシャー出身者を指す。
同時に、“バカ” “阿呆”を意味する言葉でもある。
それは以下の逸話によるものだ。
ある満月の夜、高価な品物をフレンチブランデーの樽にしのばせて
運ぼうとしていた窃盗団が、馬が近づいて来る音で、
税務署の役人がやって来るのを察する。
すぐさま、樽を池の沈めて隠し、熊手で何かをすくうようなふりをした。
不審に思った税務署の役人が何をしているのか訊ねたところ、
「でっかいチーズをとりたいなと思いましてね」と答える。
その大きなチーズとは、池に映った満月のこと。
役人は一笑に付し、その場を立ち去ったが、
本当に大笑いしたのは、咄嗟の機転でまんまと盗みに成功した窃盗団だった。
(筆者注:つまり、“ムーン”とは“月”、“レイク”とは“熊手”のことで、
“ムーンレイカー”とは“熊手で月を集める者”の意)
こんな風に、いささかありがたくない言い方で呼ばれるウィルトシャー出身者だが、
食に関してはうるさく、その限りではない。
ウィルトシャーはしばしは“豚の国”と称される。
事実、この州の地方料理は、豚肉をはじめ、
ベーコンなどの豚肉加工品を使ったものが多い。
豚を飼うことはこの地方の伝統であり、
その歴史を遡ると紀元前1800年までたどることができる。
中央ヨーロッパからビーカー民が
スウィンドンにやって来たとき、
豚も連れて来て、そこから豚との共存がこの地では当然のこととなった。
スウィンドンはかつてはスワイン・ダウン/Swine Downと呼ばれていた。
スワイン/Swineとは、そう、豚のこと。
このことからもこの地の豚との深い関わりがうかがい知れるだろう。
ちなみに、現在、スウィンドンは、ウィルトシャー最大の街であり、
近代鉄道産業を支えた工業都市としても知られる。
ウィルトシャーでは農家では豚を飼うことがごくごく当たり前だった。
畑の作物などを与え、収穫期のあとは農耕地に豚を放ち、
落ちたリンゴや残った穀類などを食べさせた。
現在では減少したものの、それでも一部ではこうしたやり方を継承し、
のびのびできる環境で豚を飼育している。
(・・続 く・・)
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これまでの、“イギリスの地方料理 ロンドン”
“イギリスの地方料理 バークシャー”
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