1861年の著作の中で、ビートン夫人は以下のように述べている。
(筆者注:ビートン夫人はミセス・ビートン、イザベラ・メアリー・ビートンのことで、
19世紀の作家。料理と家政についてまとめた
『Mrs. Beeton's Book of Household Management/ビートン夫人の家政読本』は
あまりにも有名で、現在でもイギリスでは広く愛読されている。)
“良質なガチョウはサフォーク、ノーフォーク、そしてバークシャーで見られる。
しかし、もっともよく太ったガチョウがいるのは
リンカーンシャーとケンブリッジシャーであろう。
これらのエリアのガチョウは、その多くがロンドンへと出荷される。”
この地方のガチョウは小麦の収穫が終わったあとの農耕地に放たれるため、
刈り残しの小麦を食べ、そのため丸々と太るのだ。
鉄道時代が到達する前、ガチョウは靴を履かされ、タールの上を歩かされ、
道をならされたものである。
9月29日のミカエルマスは、ガチョウを食べる日でもあった。
(筆者注:ミカエルマスとは大天使ミカエルの日。各地で大祭が開かれ、
イギリスでは秋から始業する学期のことをミカエルマス学期と呼ぶ)
この日はビジネスで考えると四半期が終わる時期に該当し、
農場労働者は土地の賃料を支払うと同時に、
地主にガチョウも進呈していたことから、ガチョウを食べる日となった。
ケンブリッジシャーのハンティンドンといえば、名物はフィジェット・パイ。
ベーコン、タマネギ、そしてリンゴが具に使われるクラシックなパイのひとつで、
このタイプのパイは、イングランド中部でよく見られ、
フィチェット・パイと呼ばれることもある。
フィジェット・パイにしろ、フィチェット・パイにしろ、
なぜこのような一風変わった名前になったのかは分かっていない。
フィジェット・パイは焼いているときに、
なんともいえぬ臭いがすることでも知られる。
フィジェット・パイの別名のフィチェット・パイのフィチェットとは
イタチのこの地方の方言。
同じ言葉はアメリカ英語の場合だとスカンクを意味することから、
その臭いのほどがわかるだろう。
憶測の域を出ないが、この臭いを連想させる言葉が、
フィチェット・パイひいてはフィジェット・パイの名前の由来だと考えられる。
ほかにも諸説あり、フィチェットとは5辺の意味があり、
もともとこのパイの形が五角形だったことによるとする説もある。
また、このパイのソースはゆるく、早く食べてしまわないといけないので、
そのせかせかする模様を指すフィジェットから来たとも考えられる。
いずれにせよ、確かにわかっていることは、フィジェット・パイは
収穫期に農作業をする人たちの胃袋をたっぷりと満たした、ということである。
(・・続 く・・)
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