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イギリスの食文化研究家、食のダイレクター/編集者/ライターの羽根則子がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。chattex アットマーク yahoo.co.jp


by ricoricex
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『ビリー・エリオット』と筑豊と


2014年1月22日、シュガーロード日帰りモニターツアー(佐賀・飯塚・北九州)に参加しました。
今回、東京から同業の友人も参加し、
どういう話の流れだったか、『ビリー・エリオット(邦題:リトル・ダンサー)』の話になり、
また、シュガーロードモニターツアーで訪ねたのが筑豊で、
共通項は、というと(昔の)炭坑町なんですね。

私自身、実家は、山口のかつての炭坑のあったところが近くにあり、
とはいっても早くに炭坑は止めたので、私自身の記憶にはありません。
ただ、ぼた山とか、採掘場のあととか、引き込み線とかは、
今も光景としてありありと覚えています。
でも、親はかつての華やかなりし頃を覚えているし、
最近になって知ったのですが、炭坑関連の仕事をしている親戚もいたと。

そんなわけで、思い切ったことをいうと、私自身は思いっきりワーキングクラスの出身ですし、
イギリスで好きな音楽を奏でるミュージシャンの出身地や行って温かい気持ちになるのは、
グラスゴーだのマンチェスターだの、これまた思いっきりワーキングクラスの町。
思い切ったことついでに言うと、現在の私の仕事はミドルクラスの仕事で
(ワーキングクラスよりミドルクラスが上、という意味ではない。
 ただ、クラスが違う、ということ)、
それ自体は別段どうということはないのですが、
自分がどこに帰属しているのか、軸足がおろせない気分になることがあるのも事実。

と、枕が長くなりましたが、
『ビリー・エリオット』を観たのは、私がイギリスに住んでいる時で、
もともと市井の人々の丹念に描いたケン・ローチ作品が好きで(『ケス』が大好きなのです)、
これについても佳作だなぁと思ったのです(あっ、これはケン・ローチの作品ではありません)。
役者はうまいし、なにより北の生活というものを上手に描いている。
それから数年後、はっと思い出したことがあり、
そのことを先日久しぶりに思い出した次第。

というのは、イギリスの食をしっかりやろうと思ったとき。
きちんと学ぼう、でもシェフになるわけではないし、レストラン料理でなく家庭料理を、
ただ作り方を教えるのではなく(それだと応用がきかない)、
フォーミュラとそれを基に体系立てて教えてくれるところ、
知識もきちんと叩き込んでくれるところを、
(今思うと、ずいぶんな条件で、
 そのときはこんな条件のところ、本当にあるのかいなとはまったく思ってなく、
 どこかにあるはずと信じて疑わず、果たして実際にあったわけで(笑)。
 ちなみに今はその学校はありません)
数カ月かかって探し出し、
なんとか見つけたあとは、
その学校はロンドンの通勤圏といえばそうなのですが、
車を運転しない限り、ロンドンからは通えないだろうと判断し、宿探し。

何度もやりとりを重ね、学校のプライベートゾーンにひとつゲストルームがあったので、
最初は断られたものの、
結局はそこを平日は住まわせてもらうことに(週末はロンドンの知人宅)。
後で知ったのですが、当初その部屋は同じクラスをとったクラスメイトの先約があったものの、
学校側が彼に相談して、彼は近くのB&Bに移ることを承諾してくれ
(B&Bは徒歩圏内にありませんでした。
 私は近くのB&Bに住み、バスで通おうと考えていました)、
幸運にも私は学校のゲストルームを使わせてもらえることになったのです
(後で、部屋を移ってくれた彼が直接話してくれて知りました)。

イギリス人の友人曰く、“外国人は珍しくもなんともないし、
お金さえちゃんと払えば誰でも受け入れてくれるよ”。
概してイギリス人は寛容です。
それは体感としても分かっていたんだけれど、
ここで言いたいのは通えるように便宜を図ってくれたということ。

そのときにはっと思い出したのが、映画『ビリー・エリオット』の中の
ロイヤルバレエの試験を受けたときのシーンでした。
ビリー・エリオットのそのときの技術はまったく入学できるレベルではなかったけれど、
インタビューで踊ることはすべてを忘れて夢中になれる、と答えたことが
試験官がこの子に賭けてみようと合格させたことは明白で、
私の場合は、しつこくしぶとく日本からコンタクトをとってくる私の熱意に学校側がほだされ、
であればベターな環境をと、
私にゲストルームに住まう権利を作ってくれた、ということでしょうが
(そしてそのために交渉してくれたことは学校側からはついに知らされなかった)、
内容は違えど、そういう恩恵を私自身が実際に受けたんだなぁと思いいたったのです。

イギリスの食は興味はあったので、それまでもレシピを見たりはしていたけれど、
もともと作るのは好きで、
かつすでに食の仕事はしていて、取材で厨房にも入っていて、なまじ知識があったので、
ざっと材料と分量だけ見れば作り方は読まなくてもだいたいわかるからすっ飛ばしていたのを、
一から鍛え直すいい機会でした。

ただ、ネイティブに囲まれてみっちりやるのは、
生活文化の違いが大きく、言っていることはわかるけれど、
具体的に何をさすのかわからなかったり
(お皿をあっためておいて、と言われてオーブンで温める術を知らなかったり)、
そんな自分が悔しくって歯がゆくって、strugglingな毎日。
そういったことの連続で、毎日毎日、授業の後、勉強、勉強、勉強。
絶対にものにしてやる!と毎日もらうレシピや資料を、
しっかり目を通して、もれなく読み解くことを自分に課し、
嗚呼、このときは本当に勉強したなぁ。
日々精いっぱいだったけれど、
私を受け入れてくれて、ほかの生徒たちと同じ土壌に立たせてくれて、
そのチャンスをくれた学校に、今も本当に感謝していて、感謝してもしきれない。

イギリスで生活をすると、
ものごとはまずスムーズに運ばないし、腹立たしいことは山のようにあるけれど、
圧倒的に素晴らしいと思うのが、個人を尊重し、こういう機会を与えてくれること。
ほかの学校に通っているときも体験したのですが、
“このクラスは私には合わない。私はこういうことをやりたいから、
妥当な別のクラスがあればそこに移らせてくれ”と言うと、
まずは話をきいてくれる、そして空きがあったり、適していると判断すると移らせてくれる。

私がイギリスのことをやっているのは、
ぶーたれちゃうことも多いけれど(その方が多い?)、
その根底には、恩返しの気持ちも確かにあるのです。
そんなことを思いながら過ごしたここ数日。
知らず知らずのうちに傲慢になっていやしないか、
改めてまっすぐにちゃんとやろう!と思った次第です。



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by ricoricex | 2014-01-28 00:00 | イギリス社会