代表格として挙がるのが、ベッドフォードシャー・クランジャー。
パイの一種で、ひとつのパイの中に一方はおかずを、もう一方は甘い物を詰めた変わり種。
これは農家が編み出したもので、ひとつのもので、
食事からデザートまで済ませてしまおうという発想から。
現在のベッドフォードシャー・クランジャーは、
その原型を留めておらず、姿,形を変えて残っている。
もともとは、パイ生地でしっかり包んで焼くのではなく、
肉を、ドライフルーツを散りばめた生地でくるくると巻き、
茹でて作られていた代物だ。
この手のパイは、イングランド各地で見られる。
プレーンなものから、農家の携帯食まで、バリエーション豊かだ。
同時に、家庭によっても具や味つけはさまざまである。
(筆者注:コーニッシュ・パスティもその一種と考えてよいだろう。
日本でいうところの、昔、農作業に行く際に携帯したおにぎりに近い。)
貧しいところでは、唯一使用可能な肉類であったベーコンを入れ、
リッチな家庭などでは、ステーキとしてもそのまま使える肉を使う、
といった有り様だった。
類似するメニューで、イングランド中東部では作られていたのはベーコン・クランジャー。
その名の通り、ベーコンやテムズ渓谷で採れるタマネギやセージがその具材。
レスターシャーでは同じような料理は、コーン・ベーコン・ロールと呼ばれた。
この地域では、クランジャーという呼び方はしなかったのである。
クランジャーは、ノーザンプトンシャーの方言で“がつがつ食べる”の意。
ベッドフォードシャーはノーザンプトンシャーと隣接しており、
ベッドフォードシャー・クランジャーという呼び方は、
その地理的条件と、ベッドフォードシャーの人々の暮らしぶりに起因するものだ。
(筆者注:レスターシャーもノーザンプトンシャーに隣接するが。
このクランジャーという言葉については、同じ言語背景を持たなかったのであろう。)
ベッドフォードシャーでは、多くの女性が麦わら帽子工場で働いていた。
朝、クレンジャーを入れた鍋を火にかけて出かけると、
戻って来たときにはゆっくり時間をかけて
クレンジャーが茹であがっているといった按配。
帰宅して、すぐにごはんにありつけ、がっついた、というわけだ。
現在、ベッドフォードシャー・クランジャーは郷土料理を継承する、
といった意味合いで残っている。
地元の祭りやイベントでは、クレンジャー食い大会なるものも開催される。
しかしながら、前述のように、ベッドフォードシャー・クランジャーは、
現在では焼いたものが主流で、実際に焼く料理として分類される。
かつてのレシピは、茹でるタイプとして区別されることもある程度だ。
しかも、その場合は、茹でたあとに、低温のオーブンで水気をとばず、というプロセスを含む。
オリジナルの製法がおいやられてしまったことを残念、と言いたいわけではない。
なぜなら、これこそがイギリスの調理法における変遷だからである。
かつては、主流だった茹でるという調理法。
それがガスやオーブンの登場により、
より使いやすく、かつ短時間でできる、焼くという手法が主流になっていったことを
象徴するのが、ベッドフォードシャー・クランジャーなのである。
(・・続 く・・)
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前回までの“イギリスの地方料理 バッキンガムシャー、ベッドフォードシャー、ハートフォードシャー 01〜04”はこちら(↓)
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