鶏がらスープを使う、と聞いて、ものすごくそそられた、のがきっかけ。
別段、鶏がらスープが好きなわけではないのですが、おでんに使う、というのは、すくっと味わいが想像でき、ああ、いいだろうなぁ、と思ったのです。
ありがたいことにそのお店の掲載誌を頂戴し、間違いない、と確信。
小倉(福岡県北九州市)に泊まった夜は、この地で50余年おでんを作り続けている「
大太鼓」へ。
https://sakagura-oodaiko.com・・・
本州の西の端から東京に来たのは、大学入学で。1987年、18歳でした。
途中、イギリス滞在もあったものの、2011年から数年を福岡市で過ごすまでは、ずっと東京でした(今は、また東京)。
福岡市で暮らした経験がなかったら、ここまで味覚が敏感になっていなかったでしょうし、舌の先祖返りもなかったでしょう。
東京から福岡市に移ったとき、それまで縁もゆかりもなかったし、もちろん全てが当てはまるわけではなかったけれど、でも私の郷里と物理的な近さから似通ったところも多く、
あぁ、子供の頃、こうだったな、とすっかり長くなった東京生活で自然と奥に追いやられていた味覚が思い起こされ、
東京に戻ったら、あっ、ここが違う、ここも違う、といちいち照合してしまうようになったのです。
東京に住み続けていたら、こうはならなかったはずです。
引っ越しが多い方だったのもあり、帰属意識が薄く、地元びいき、みたいなものもほとんどないのですが、
それでも体に刻まれているものはあまりに大きく、
仕事柄もあり、評価と嗜好は別という態度ですが(一致することもあります)、それとはまた別に、好き嫌いを超えた、細胞がザワザワし、体にしっくりなじむ味はあって、それはやはり子供の頃に培われたものが基軸なんですよねぇ。
私はバリバリのワーキングクラスのくせに、だしをたっぷりきかせた淡い上品な、角のとれたふくよかで丸みのある味が無条件に好きで、エリアと家庭の両輪からそういう味で育って、どうにもそういうのが落ち着きます。
なので、それまで、いいな、おいしいな、と感じたおでんの店はあったのですが、「
大太鼓」で体がこれ!と喜んだのは、そういう理由もあるんなんだろうな、と自分で納得したのです。
・・・
予約を取らないと聞き、ホテルにいったんチェックインして、すぐに向かいました。
お店に着いたのは18時を回った頃。まだ夕暮れの名残があり、そうなんですよね、この時間、すでに暗くなっている東京とは1時間近く時差があるんだよなぁ、と感じながら。
いかにもちゃんとした料理を出す呑み屋、という店構えで、戸を開けると、店長さんかな、笑顔とともに「いらっしゃいませ」の威勢のいい声。
うん、いい感じ。
店内は壁を隔てて2部屋に分けれていて、どちらもカウンター席。奥の部屋に通されました。
さて、何にしよう。
天ぷら(練り物、ね)、大根、ロールキャベツ、春菊。
春菊は東京の苦みやえぐみが強いものでなく、関西の味や食感がやわらかいものともまた違った、ローマとも呼ばれるこのエリアの特有の、葉に丸みがあり(ギザギザでなく)、おだやかでやさしい味のもので、
これはいいだろうなぁ、と思ったら、やっぱりよかったですねぇ。
もう何十年も、この春菊の存在そのものを忘れていたのに、甦りますねぇ。
この春菊(ローマ/大葉春菊)にこのおでん、これ以上ないほど好相性ですねぇ。
このお店、具が大きい。
ケチケチしてなくって、うれしいなぁ。
ついで、トマト。
若松とまととあったから、若松(北九州市)のですか、と聞いたら、そうです、と。
何か聞きたそうな表情をしていたのを察したのか、「でも、僕、地元じゃないからよく知らないんですよ」と。
悪かった。。。
ファインダイニングなら、サービス料も払うわけだし、そういう知識とかの伝授も楽しみのひとつですが、
カジュアルな店だと、店主や料理長ならならともかく、スタッフの方にはそういうの求めていません、ご安心を。
カウンターには学生バイトのような彼と、同じような境遇と思われる男性とがいて、「○○君、カットするの上手だね」とか、奥の厨房にいた中年の女性と和気あいあいとやっていて、
そういうゆるさが心地の良さにつながるから、こういうお店はこれでいいんです。
サラリーマンがネクタイを緩めに来るところでもあるから、背筋を伸ばしてキリッとされると、却って困ります。
で、若松とまと。
これは、、、う〜ん、どうかな。
生か、それに近いサラダとかで食べる方が向いている気がしました。
若松とまとはおそらく、もともとは甘みもあるトマトだと思うのですが、火を入れたことで、ちょっと酸味が勝っちゃったなぁ。
いわゆる関東炊きなら、いいかもしれない。
(でも、まあ、若松とまとに関しては、地のものを使うのが第一義、なのでしょう)
その後、厚揚げと安岡ねぎを。
安岡って下関?と思ったけれど、スタッフのおにいちゃんは知らないだろうなぁ、と察して、何も聞かず食べるとします。
あっ、そういうことか!
このシャキシャキ感はふぐ刺しで使ってるネギだ!
ということは、安岡ねぎの安岡は下関で間違いないな。
これ系のネギだと、都道府県切りだと博多万能ねぎになるのでしょうが、地べたの文化圏としてはそうじゃないんですよねぇ。
私なんぞ、北九州市はこちら側、福岡市はあちら側、って思っちゃいますからねぇ。
おでんの具には、牛すじもあり、私は自分のおでんには必ず入れるのですが、だし用なので食べません(食べる牛すじは好みじゃないのです)。
「
大太鼓」も鶏がらベースではあるけれど、たくさんの具材、そして牛すじも使っているから、味に深みがあるのかもしれません。そういう食文化圏ではないのに、はんぺんもあるのは驚いたけれど(っと、昨今は変わってきたのかな?)、見渡すと、周囲の水商売系のおじさんやおばさん、地元の人たち、だけでなく、出張で来ているサラリーマンも相当数いるようで、それで、かな。
おつまみもいろいろありますが、おでんをもっと食べたい。
次回来たときの楽しみとします。
にしても、、、
北九州市のお店は街と密接で、そこにある必然を感じさせるお店が多いところがたまらない魅力です。
単に食べる、じゃなくって、店に浸って店の佇まいとかやりとりとか全てひっくるめて、大袈裟な言い方をすると、そこのエリアの食文化を味わえて、しみじみうまい。
・・・
いたく気に入ってしまい、東京に戻って、早速鶏がらも買っておでんを作りました。
(私のおでんはこんなの(↓) )
東京でも入手しやすいところで、ローマ/大葉春菊にいちばん似ていると思われる、青梗菜をさっとくぐらせて食べてもみました(よかった!)
それまでおでんのロールキャベツはあってもなくても、だったのが、いいなぁ、となり、私のロールキャベツは鶏ミンチを使うので間違いなく合うでしょう。食べ続けたおでんがようやく終わり、これも試してみようと思っています。
wed 28/03/24