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イギリスの食研究家、食の編集者/ライター、フードアドバイザー、情報発信サポーター“羽根則子”がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。


by ricoricex
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カテゴリ:イギリスな人( 1 )



イギリスの食をやっていると、当然、
イギリスに関わっている人、イギリスを仕事にしている人に会います。
とても個性的で魅力的な人が多く、
会ったり話したりするたびに刺激をもらいます。
そこに共通するのは、“イギリスのよさを伝えたい”ということ。

そんな彼/彼女らの真摯な仕事ぶりを見ていると、
いつも見える部分の先、その根源にある、
なぜイギリスなのか?を知りたくなりました。
そこで、イギリスに関わるさまざまなジャンルの方に
お話をきかせていただいこうというのが、
この新シリーズ「イギリスな人」です。

この企画はそう頻繁にアップできないと思いますが、
意欲的に取り組もうと意気込んでおります。
どうぞお楽しみに。

**********
「う〜ん、なぜでしょうね」
取材中、店主の山本良子さんは、何度もこの言葉を繰り返した。
なぜお店を始めたのか。なぜそれがそれまでの経歴のフローリストとは異なるイギリス雑貨店だったのか、そして、そもそもなぜイギリスだったのか。
編集者(筆者のこと)の悪いクセで、落としどころを早急に見つけたがる。コレ!という明確なビジョンがあるところは、ストーリーにしやすい。
山本さんにあったのは、大きな意志の塊ではなくって、続いて来た時系列としての流れ。
そのときは気づかなかったけれど、いずれも振り返ってみると、ひとつの道筋としてつながっていたのだ。

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山本さんのお店は福岡市薬院の、昭和の面影が残るビルの3階にある。
オープンは2011年3月。店の名前はピスキーヴィンテージ。
ピスキーとは、イギリス・コーンウォールに伝わる妖精の名前。キノコの上に腰掛けて描かれることが多い。
妖精ときくとおとなしくしているイメージがあるが、ピスキーは、正直な人には気づかれないように手助けをし、ウソをつく人にはイタズラをして惑わせる、なんとも茶目っ気のある妖精だ。見た目も、小人なのか老人なのか、はたまた悪魔なのか。このピスキー、イギリスではラッキーチャームとして使われているという。 
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「ロンドンの蚤の市で出合ったのが最初です。なんともいえない表情や、その人間らしいふるまいが気に入ったんですよね」。
ピスキーはピグシー、ピクシーと呼ばれることもある。ピスキーはその綴りも定かではないようだ。
山本さんのお店、ピスキーヴィンテージの場合は、piskey。最後にkeyとあることから、イギリスの古くてかわいいものへの扉のカギになれば、という願いが込められている。

そして店で扱っているジャンルは、イギリスのふるいものかわいいもの。
ピスキーヴィンテージの店のサブタイトルになっているのだが、これ以外に適切な言葉を知らない。ガチガチのアンティークでもヴィンテージでもない、かといってただかわいい雑貨を集めたわけではない。
そこにあるのは、山本さんの目を通して選ばれた、ひと昔前のものだけれど愛情がわくかわいらしいもの。時代で言うと1900年初頭から1960年代のアイテムがメインだ。
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たとえば、お母さんが若いときに使っていたスカーフとか、たとえばおばあちゃんが昔作ってくれたケーキの型とか。
王室の記念イベントの思わず微笑んでしまうグッズもある。本場・イギリスの本物のシルバーウェアのアンティークもある。
そして圧巻はボタン。
ボタンそのものは小さいけれど、そこには当時の時代の美意識や職人の技が集約されており、小さいけれど大きな世界が広がっている。

だから、ひとつひとつにストーリーがあり、物とも対話も可能。
そのため、長居するお客も多いとか。もちろん、そこには山本さんの人を和ませるようなやわらかい佇まいもある。
それは選ばれたウィリアム・モリス柄を台紙にして、ていねいに取り付けられたボタンの数々や、ひとつひとつ手書きで値段と説明を記したプライスカードに表れており、山本さんのものへの愛情をひしひしを感じる。
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と、最初に戻り、「う〜ん、なぜでしょうね」。気がつけば、この店に辿り着いた、と。
別段、子どもの頃からイギリスに思い入れがあったわけでも、知り合いがいたわけではない。
ただ、思い出してみると、イギリスにつながっていて、それの方向に身を委ねていると、とは本人の弁。

2つ上の姉の影響で聞いていたのは、ビートルズやデイヴィッド・ボウイ。中学生の頃からはMTVもよく観ていて、80年代の音楽にもどっぷり浸かったという。
しかし、ご存知の通り、MTVで紹介する音楽はイギリスのものとは限らない。英語圏のものが中心で、アメリカ、イギリスが二大巨頭といったところだ。
振り返ってみれば、がポイントで、意識していたわけではないけれど、ここで夢中になったのはイギリスの音楽。
余談だが、とりわけデイヴィッド・ボウイが好きな山本さん。2013年の夏、仕入れで訪ねたイギリス・ロンドンのヴィクトリア&アルバート・ミュージアムで開催されていた「デイヴィッド・ボウイ展」に行くことができ(予約殺到でチケット入集が困難だった)、それはそれは感激したという。

山本さんが初めて、イギリスに足を踏み入れたのは、大学の卒業旅行のとき。
イタリア3日、イギリス1週間というスケジュールで、イギリスの街並みや風景にすっかり心を奪われたという。
この旅行ではコベント・ガーデンやポートベロー・マーケットといったアンティークのメッカにも足を運び、いち旅行者として楽しい時間を過ごした。
とはいえ、まだまだ、本人の意識の中では、現在の彼女の仕事につながるほどではなかった。

大学卒業後は住宅メーカーに就職。
やがて、昼間は仕事をしながら、週に一度、福岡市内のカルチャースクールに通うようになる。それは英国スタイルのフラワーアレンジメント。ここには母の影響があったという。
もともと、山本さん自身は、ガーデニングや花のことに格段の興味があったわけではなかったが、庭いじりの好きな母の影響で、自分でも気づかないうちにフラワーアレンジメントを習うにいたった。
フラワーアレンジメントのスタイルは国によって異なる。
イギリス式の大きな特徴は、グリーンを大きく取り入れるなど、より自然に近い状態で見せること。これはガーデニングも同様。
やもすると、ほかの国がかっちり隙なく作ろうとするのに対して、イギリスはもっとゆったりし自然に身を委ねるようなところがある。「日本人の私にはとてもしっくりきたんです」。

そうして、英国式フラワーアレンジメントの世界の虜になった山本さんは、20代半ばでついに半年間の留学を果たす。
ホームステイをし、英会話学校に行きつつ、フラワースクールに通う日々。
1週間の集中合宿にも参加した。
昼間はみっちり花の勉強。夜は自由参加で、ちょっとしたカルチャー講座が開催され、山本さんが参加し、おもしろいなぁとしみじみ感じたのが、アンティーク講座だった。

帰国して、果たして、アンティークに関連することを仕事に、と思いきや、店オープンまではまだ道のりがある。
このときの山本さんの新しい就職先は、地元、福岡のフラワーショップ。
2年後、東京に本店をもつ大手フラワーショップに移籍。このフラワーショップが、ちょうど福岡で店舗展開を始めたときで、このときの山本さんの配属先はホテル店。
宴会や婚礼で使用するフラワーアレンジメントやブーケを製作するのが、その仕事だった。
結局、このフラワーショップには10年在籍。その間も2〜3年に一度はイギリスを訪ねていたという。
そうして、次のステップとして、いよいよ、自身の店、ピスキーヴィンテージを開業するにいたる。
最終的に山本さんはフラワーショップでは、店長という責任ある立場を任された。そして、仕事も充実していた。
では、なぜ?

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「長い目で自分の将来を考えるようになったんです。年齢は関係ないのかもしれませんが、30代から40代と突入するというのは、やはり節目なんですよね」。
さあ、40代になる、どうするか、と自分を見つめ直す中で出た結論は、体力のあるうちに自分自身の仕事をスタートさせる、ということ。
果たして、何が、と自分の来し方を振り返ったときに、思い当たったのが“イギリスのふるいものかわいいもの”を扱う、ということだった。

準備は開店の1年前からスタート。まずは会社に退職に意思を伝え、引き継ぎに取りかかる。
その間、暇を利用して物件探し。夏休みには、今度は旅行ではなく、買付けを目的にイギリスに出向いた。
そうして、2011年2月、物件を契約し、施工を開始。同時に、DMを作るなど、告知の準備も始めた。
ピスキーヴィンテージの店のオープンは2011年3月21日。東日本大震災の直後で、こんな時期に、という迷いもあったという。

アイテムを買い付けるときの決め事は?の問いに「特にないんです」。
ジャンルを問わず、自分のアンテナにひっかかった“イギリスのふるいものかわいいもの”を扱うという。
とはいえ、アーミー色や宗教色があまりに強いものは、避けているという。悪いというわけではないが、客を限定してしまい、ほかのアイテムの中で異彩を放つから、というのがその理由だ。
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店のことを知ってもらうために、蚤の市やマーケットにも出店。
その間、店を閉めて、になるが、「もちろんお店の存在を知ってもらうことが第一義ですが、こういう場では、目的を持ってお店に訪問くださるのと違って、いろんなお客さんがやって来ます。そういう方たちと話しながら、ヒントをもらうこともたくさんあるのです」。
こういった場の出店がきっかけに店に足繁く通うようになったお客も少なくない。
また、2012年からは、店内のスペースを利用して、不定期にハンドメイド講座も開講。
リバティプリントの生地を使ってのシュシュやヨーヨーキルト作り、リース製作など、山本さんの手先の器用さとこれまでの経歴を活かしての講座だ。

これらの根底にあるのは、単に知識や技術を伝授するだけでなく、“楽しく取り組んでいい気持ちで学ぶ”を教えてもらったイギリスの学校の影響が大きいと語る。
「商売ですから、商品を買ってもらうことはとても大事です。
でも、私が選んだイギリスのアイテムを日々の暮らしに取り入れることや講座を通じて、つかの間心が癒されたり、やさしい気持ちになったり、そういう空気のようなものを届けられれば」。
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「う〜ん、なぜでしょうね」。取材の最後には、この言葉がようやくしっくり来るようになった。
今のイギリスは違うかも知れない。でも、ちょっと前までは、まだまだのんびりとおだやかで、好きなことに実直に取り組まれて、その結果、誕生したイギリスの愛おしいものたち。
一瞬だけでは量れない、長い間イギリスを通じて山本さんが吸収してきたリズムが、物だけでなくこの店には息づいている。


○山本良子さんの思い出の“イギリス”アイテム
上:フラワーアレンジメントの学校の教材。「花そのものの知識や技術でもすが、イギリス人の物の考え方や教え方にふれたことの意義は大きかったですね」
下:初めての渡英で訪ねたアンティーク・マーケットで入手した腕時計。「購入して20年以上が経った今でも愛着があります。これを買ったことが今の仕事に結びついているのかもしれません」
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ピスキーヴィンテージPISKEY VINTAGE 〜イギリスのふるいものかわいいもの
福岡市中央区薬院 2丁目13-20 榮ビル薬院3F
tel: 092-406-9654
URL: http://piskeyvintage.petit.cc/

<10月のイベント情報>
・10/6(日) 7:00-15:00 筥崎宮蚤の市 (福岡市東区箱崎) 
・10/12(土) 12:00~20:00、13(日)11:00~19:00
             大博多輸入雑貨市@住吉神社 (福岡市博多区住吉) 
・10/30(水)~11/3(日) 博多阪急8階 福岡雑貨トレンド50 (福岡市博多区)



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by ricoricex | 2013-10-05 00:00 | イギリスな人