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イギリスの食研究家、食のダイレクター/編集者/ライターの羽根則子がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。chattex アットマーク yahoo.co.jp


by ricoricex

ワーキングクラスであること


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「へぇ〜、グラスゴウかぁ〜。やっぱりノリコはワーキングクラスなんだね」。
イギリスに住んでいたり、今もちょこちょこ出かけている私。たいがい友人宅に泊まるから、他愛ない会話も交わす。
これは、訪問したイギリスの場所でどこがよかったか、という話題になったとき(相手が変わりつつ、たまにこういう話になる)。

「何がよかったの? だって観光スポットってほとんどないじゃない。一応、移動の拠点にはなるけど。スコットランドなら、むしろエディンバラじゃないの? 日本人、好きでしょ?」
「たいていのイギリスに来る日本人はそーかもね。でも、私はエディンバラは全然ダメだった。カールトン・ヒルはそこからの景色がよかったし未完成のパルティノン神殿風のナショナル・モニュメントもその中途半端さがもおもしろいな、と思ったけれど、なんかエディンバラにいると、サイズの合わない服を着ているみたいで心地よくなくって、すぐにグラスゴウに移動した」
「ははは。で、グラスゴウはよかったんだ」
「うん。後にも先にも私の人生のなかで本気で住みたい!って強く思ったところってグラスゴウなんだよね」
「へえええええ〜」
「街がさ、空気感っていうのかな、が妙に肌にすーっとなじんで、しっくりきたんだよね。だから、あっ、ここなら気分よく暮らしていける、って思ったの」
「ほかにも気に入ったところある?」
「マンチェスター」
「(笑)」
「街としておもしろいな、って感じた。住む、というのとは違うけど。ここもおそろしく庶民の街で、そこに文化的なこともあって、それが高尚ではなくって親近感が持てた。グラスゴウにしてもマンチェスターにしても、リアルに人々の暮らしが息づいてて、そこがいいんだよね」
「どっちにしてもワーキングクラス・タウンだ〜」
「そーなの。結局さ、生まれとか育ちってそういうもんなのかもね。なじんだものにシンパシーを感じるっていう」
「やってることはミドルクラスだけど、ね」(私は、イギリスの食研究にしろ、編集(出版)/ディレクション(広告)/ライティング/情報発信にしろ、軸はメディアの仕事なのです)
「うん。それはあなたも一緒でしょ。ワーキングクラス出身でミドルクラスの仕事してるっていう。あっ、でも私の場合、仕事はミドルクラスでも収入はワーキングクラスだよっ!」
「ははは〜」


類は友を呼ぶ。
私がずっと仲良くしているイギリス人の友人は、ワーキングクラス出身、職業はミドルクラスという人たちがほとんどだ。

グラスゴウは、本気で住もうと思った。それは初渡英でグラスゴウを訪ねた1996年のこと。
でも、それなりの期間暮らすには、何らのヴィザが必要だし、何か目的がないとな。
ちょうど時代は紙からデータ、DTPに移行するときで、そして仕事柄グラフィックデザインも一度体系的に学びたかったので、グラスゴウ・スクール・オブ・アートもしくはグラスゴウ・ユニバーシティ(どちらもとても制限はあるものの中に入ることができ、雰囲気がとてもよかった)でそれに類するコースはないかな、と探した。

問題発生。
今ほどではないにせよ、外国人、イギリス国民でもEUシチズンでもないとなると、とにかく授業料が高い、とりわけアートスクールは。
それで断念し、同時にいろんな側面から合理的な判断をくだして、イギリスの別のところで別のことを学ぶことにしたんだけど。

お金が(充分に)ないことは、人生の選択を狭める。それは、人生の可能性を狭めることも意味する。


「ねえ、私たちはワーキングクラスで、でも仕事はミドルクラスだから、リアルなミドルクラスの人たちともずっと接しているでしょう。違いってなんなのかな?」
「う〜ん。あっ、ミドルクラス(そしてそれ以上)の人たちってインテレクチュアルな人が多いよ、やっぱ」
「そういう素地があるってことね」
「うん、インテレクチュアルになるためには、一にも二にも教育なんだよね。学校にしろ家庭にしろ、そういう環境に身をおいてないと。教養を身につけるってそりゃお金がかかるわけだから」
「それってインテリジェントとは、違うもんね」
「そうそう」
「そういえば、オノ・ヨーコがジョン・レノンのことをインテレクチュアルって言ってたな」
「そりゃそうよ。彼自身はワーキングクラスの生まれかもしれないけれど、育った環境はミドルクラスだもん、ロウワーだけどさ」
「私はインテレクチュアルでもインテリジェントでもないなぁ」
「そのへんはよくわからないけど、ただ、ノリコは相当オブザーヴァントだな、って思う。物事をじ〜っとみたり実際に体験したりして、その積み重ねから、自分の意見を導いてることは強く感じる」
「へぇ〜」
「だから、ときどき、はっとするようなこと言うんだよね。それが机上の空論じゃなくって、地に足がついているから、納得させられるし。だからこそ、今の仕事してんじゃないの」


人を喰ったような発言も多いものの、おそろしいまでの聡明さを感じるのは、ジョン・ライドンが卓越したオブザーヴァントだから、なんだろうな〜。


「そういえばボーンマスに5カ月ぐらい住んでたじゃない? どうだった?」
「そのときは基本、猛勉強してたから、あんまりどうこうはないんだけど。街としては退屈だな、って思った」
「ははは。年寄りばっかだからね。気候がいいからリタイアしたあとに住みたい場所として人気があるわけだし。でもって、典型的なミドルクラスの白人の街なんだよな〜」
「そうそう、ミドルクラスってこーなんだな、って思ったこといろいろあったよ」
「何、何?」
「う〜んとね、私のホームステイ先も超ミドルクラスで、奥さんがバリバリ仕事してて、出張が多い人だったの。彼女はさばさばしていて、話してて楽しかったな。でね、ダンナがほぼ専業主夫で、実際に日々世話をするのは彼の方。そこで、うっすらと軽蔑/差別されてるのを感じたの」
「何か言われたりされたりしたの?」
「全〜然。だから、一見わからないのよね。ミドルクラスだから差別的な発言はしないし、基本親切なの。でも、毎日顔を突き合わせているでしょう。そしたら、たま〜に、あっ、この人、腹の中は見下してるな、って感じることあったよ」
「へぇ〜」
「その家は最大3人をホームステイさせることができたのね。ドイツ人とかスイス人にはコンプレックスというか、頭が上がんない感じが伝わってくる。ジョージアから来ていた人がいたこともあったんだけど、彼女と私に対しては、微妙に態度が違うの。あからさまに差別とかっていうのはなかったし、表面上は本当に親切なんだけどね」


あるとき、大学に通うのに奨学金を得たと言ったら、「ご家庭の教育がしっかりしてらっしゃるのね」。
あるとき『自虐の詩』(漫画の方ね)とか西原理恵子の『この世でいちばん大事な「カネ」の話』とか読むと、くすりと笑いつつ、でも胸がしめつけられて涙が出る、と言ったら「あら、そうなの? そんな感動するようなポイントあったかしら。正直言うと、なんだかよくわからかったのよ、私」。


日本のミドルクラスの人たちは(も)基本親切で邪気がない。なので、一緒にいると不愉快な思いをしない。
でも、ときどきうっすらとした居心地の悪さを覚える。
そして、先のボーンマスの例ではないけれど、ぼんやりと、ときにあからさまに見下されることも否めない。「あなた、なにもないじゃない」ってね。

私に実力がないから、と言ってしまえばその通りで、身も蓋もないんだけれど、ほかの要因としては、ひとつには、私がバカと思われた方がラク、実際のところ、決してインテレクチュアルでもインテリジェントでもないし、という姿勢だからかもしれない。
でもって、それを覆せるスペック(生まれ、育ちetc)がないから、つまりワーキングクラス出身だからってことは間違いないだろーな。
(見下されていることに対しては、ただ、この人は私をこう評価してるんだ、と認識するだけで、だから何なんだ?とは思ってるんだけど。)


先日のイギリスのEU離脱/残留の国民投票
インテレクチュアルでもインテリジェントでもない私は、明確な意見を持てずにいる(そして、持ったところで公言するつもりはないし、その必要もないのだけれど。オブザーヴァントな視点としては、離脱に投票した心情には強いシンパシーを感じてはいるが)。
私はテレビをおいていないし、新聞もとっていないし、で認識が違っているかもしれないが、日本での論評、ネットで叫んでいる人たちの意見が、あまりにもワーキングクラス=バカ/考えなしの図式が基本となっていて、その憎悪にも近いヒステリックさにただただ驚く。

“離脱の風潮に誘導されたワーキングクラス(私の見方は、むしろ流れに屈しなかったと捉えている。イギリスのマスコミなどは明らかに残留に走っていた。残留派は多くのセレブリティを投入し、そして投票1週間前のあの悲劇。EU残留を主張した労働党下院の議員、ジョー・コックスの殺人事件で同情票が残留に流れてもおかしくなかったのに)”、“愚衆であるワーキングクラスに投票なんかさせちゃいけない”、“然るべき人たちで物事は決定せねば!”。

ワーキングクラスは、確かにインテレクチュアルでもインテリジェントでもないだろう。
でも、程度の差こそあれ、オブザーヴァントであることは可能だし、実際のところ、物事を目の前で起こっていることの積み重ねで判断する。そこには絵に描いた理想が入る余地はほとんどないが。


今回、イギリスのワーキングクラスを酷評している日本の評論家、ネットで声高に物申している人たちは、日本で同じようなことが起こったときに、やはり同じようにあからさまに庶民を蔑むような発言をするのだろうか。
イギリスのEU離脱/残留の国民投票の結果を通して、日本の知識層(と呼ばれる)、そしてミドルクラスの人たちの大半が、実際のところ庶民に対してどういった感情を抱いているのかが露呈された形となった。
これが私にとって、日本での論調を眺めていての最大の収穫である、皮肉なことだけれど。


~~過去の関連記事も併せてどうぞ
○EU 離脱! これがイギリス国民が出した答 → http://ricorice.exblog.jp/24481123/




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by ricoricex | 2016-06-30 12:00 | イギリス社会