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イギリスの食研究家、食のダイレクター/編集者/ライターの羽根則子がお届けする、イギリスの食(&α)に関するつれづれ。chattex アットマーク yahoo.co.jp


by ricoricex

キッチンスタッフ求む! 人手不足に悩むイギリスのレストラン業界


先進国ではいずこも状況は同じなのかもしれません。
読後にそんな第一印象を抱いたのは、2015年9月18日(金)づけのイギリスの新聞、The Guardianにあったこんな記事。

キッチンスタッフ求む! 人手不足に悩むイギリスのレストラン業界
Too few chefs: how a staffing crisis could change what we eat
http://www.theguardian.com/lifeandstyle/2015/sep/18/chef-shortage-could-change-way-we-eat-restaurants?CMP=fb_gu


以下がその内容です。


~~~~~~~~
ノッティンガムのミシュラン2つ星レストランSat Bainsは、この11月より、営業日を短くして週4日に変更。その理由は、厨房スタッフの不足によるものだと言う。
ケンブリッジにある、同じくミシュラン2つ星レストランMidsummer Houseのオーナーシェフもこの事態におおいに共鳴するとし、「この深刻な事態を声に出して説明しないと、状況はますます悪化するでしょう。これは個々のレストランのみならず業界全体の問題です」と指摘する。

では、そのレストランの厨房がどんなものであるのか。
今や世界的にその名を知られるデンマーク・コペンハーゲンのレストランNomaのレネ・レゼピは、ある飲食業界メディアの取材でこう語っている。「レストラン業界というのは、いまだに封建的な男社会なのです。その体質が多くの若い才能を潰してしまっているのは事実。実際に私自身が、お山の大将なわけだから」

一時的ならば、人材は見つかるかもしれない。
しかし、それは自転車操業に過ぎず、本質的な問題解決にはつながらない。
テレビ番組にも出演している、チェスターの人気レストランSticky Walnutのシェフは以下のように話す。「レストラン業界は華やかな世界に見えるかもしれません。しかし、その労働環境はまったくもって素晴らしいとは言いがたい。私自身は、仕事を通して若いスタッフに自分の知識や技術を惜しみなく伝えたいと考えていますが、それ以前に、朝7時30分には厨房に入って夜中まで仕事をする、そんな環境に果たして今の若者は身をおきたいと考えるでしょうか」。

このような状況はなにもファインダイニングに限ったことではない。街場の飲食店でも状況は変わらず、人手不足にあえいでいる。
専門学校を卒業し、レストラン業界に就職した半分以上が辞めてしまっている今、2020年には実に1万1000人もの厨房スタッフの不足が予測される。
そのため、ついにはEU圏外、バングラディシュにも人材を求める事態へと発展している。

では、シェフの賃金はどうだろうか?
ステーキハウス、Goodmanの場合、ヘッドシェフになると年俸が60000〜70000ポンド(日本円で1100〜1300万円程度)と決して悪くない。むしろ好条件といってもいいだろう。
実際のところ(こう言うと異論はあるかもしれないが)、このレストランでシェフに必要な技術は肉を的確に焼くことで、ソースだの下ごしらえだの、複雑で煩雑な作業はない。

ここにも落とし穴がある。
「シェフというのは、相当肝がすわっていないと務まらない職業です。肉体的にも精神的にもタフであることが求められ、なおかつ創造性も発揮しないといけないのですから」とGoodmanのオーナーは語る。
「少しお金が入ると、アルコール、ドラッグ、ギャンブルに溺れる者が少なくありません。気を紛らわすためにでき心で始めたことが深みにはまり、ついには抜け出せなくなるのです。私はそういう者たちをたくさん見てきました」。
実際のところ、まっとうに仕事を続けられるシェフは10人に2人いるかいないかだという。

賃金を上げないと人は集まらない。しかし、労働条件はなかなか改善されない。
その結果、今、レストランシーンでは何が起こっているか。
先のステーキハウス、Goodmanが好例で、技術の獲得が比較的簡単なもの、メニュー数が多くない飲食店は盛況である。
グルメバーガーのByronMeatliquer、Goodmanの姉妹店のBurger & Lobsterなどの店が人気があるのは、お客側のニーズ(ファストフードとファイダイニングの中間で、よどよく良質なものもほどよい値段で食べられる。これについては以前に言及していますので、こちらをご参照ください。 → http://ricorice.exblog.jp/23600997/)のみならず、提供する側も、仕事内容がむずかしくないため、これならスタッフを集められるといった側面があるからである。
昨今、人気のある肉料理店Hawksmoorに倣ったレストランが雨後のタケノコのように現れているのは、こういった事情によることも、大きな理由のひとつである。


そのため、ある業界誌の編集者は、ミシュランレベルに相当する質のよい個人店を始めるにあたって、こうアドバイスする。
「自分が作りたいメニューがイメージできたら、それを具現化できる厨房スタッフを探すこと。もし見つからなければ、ビジネスモデルを考え直す方がいい」。


話をレストラン業界の労働条件に戻そう。
現在、ロンドンのレストランスタッフの年収は、週70時間労働で、平均18000ポンド(日本円で340万円程度)。
前述したステーキハウス、Goodmanの賃金がいいのは、こういった状況を打破したいと、オーナーが考えた結果でもある。
当レストランでは一般のスタッフについても、最低賃金は時給14ポンド(日本円で2600円程度)、週50時間を最長労働時間としている。
「従業員は仕事に人生を捧げたい者ばかりではない。時間中はしっかり働いて稼ぎ、しっかり休むことも人生には重要なのです」とGoodmanオーナーは話す。

一方で、年中無休24時間営業のロンドンのレストランDuck & Waffleでは事情が異なるが、ここも人材不足に悩まされてはいない。
「夜間営業には5人の男性スタッフを、朝8時から夕方5時まではひとりのスタッフが厨房に入っています。通常、週90時間労働というと、そのハードさに精神的にもまいってしまうでしょう。だけれども、スタッフ自身の希望の時間に合わせてシフトを組んでいるので、今のところ問題は起こっていません」。

もちろん、伝統的な考え方にのっとってスタッフ教育をしている店もある。
ミシュラン2つ星のフレンチレストランLe Gavrocheのミシェル・ルーJrはそんなひとりだ。
「もちろん、平均的な賃金は支払います。しかし、長時間労働はこの世界では当たり前。その中でいかに這い上がっていくか、自分のオリジナリティを生み出していくか。それができない者は生き残れないのです。そして、優れたシェフというものは、いかなる環境でもモチベーションを保ち続けることができるのです」。
まずは仕事。その上で、休んで英気を養い、ちゃんと食事を摂り、労働に見合った賃金を受け取ることは必然、と付け加える。

現状、Le Gavrocheでは人手不足に悩まされてはいない。
それはイギリスのみならず、EU全体で人材を求めているからでもあろう。
「今のイギリスの若者は、しがみついてでも仕事をするようなことはしません。気に入らなかったら、人材派遣会社に行って、もっと給料のいいところを探すだけなのです」

では、賃金を上げればそれでいいのか?
バングラディッシュのケータリング協会では、イギリス側が提示するEU圏外のスタッフに年俸29570ポンド(日本円で550万円程度)を支払うのは高過ぎるのではないかと危惧する。
バングラディッシュ人がイギリスの飲食店で働くとなれば、カレー屋、ファインダイニングは存在するものの、街場の店が大半だろう。
賃金の高さはメニューの値段に反映される。そこでお客は、大衆食の代表格ともいえるカレーに10ポンド(日本円で1850円程度)も払うだろうか?

スタッフが快適に働ける環境も必要、ちゃんとした食材を使って確かな技術で調理することも必要。同時に客の立場としては、なるべく安く食べたいのが本音だ。
果たして、どこでどう折り合いをつけるか、店側も客側もますますシビアになっていくだろう。


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う〜ん、痛いですね。
日本の飲食店も軒並み人材不足が言われているのも、労働時間の長さや充分とはいいがたい賃金など、根幹の部分は同じではないでしょうか。
国が豊かになれば、きつい仕事はしたくなくなる。
では誰がそこを請け負うのか。

現在、シリアからの移民問題で揺れているヨーロッパ。
ドイツが両手を広げてシリア移民を迎え入れているのは(同時にEUからギリシャを手放さないのは)、日本と同様、高齢化が進む国で、労働力が必要、できれば安い労働力が。
料理といえばの国、フランスでレストラン業界が成立しているのは、安い労働力、つまり移民やタダでも働きたいという外国人の見習い(現在は少なくなったでしょうか?)の存在があってこそなのは、否定できない事実ですし。

そんなことも、この記事からは透けてみえてくるのです。


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by ricoricex | 2015-10-13 00:00 | イギリスの食ニュース